【麻の衣 「帷子かたびら」の模造】 2024年9月21日~24日 於 弘道館
弘道館(こうどうかん)は、水戸藩第9代藩主徳川斉昭が、天保12年(1841年)に開設した日本最大規模の藩校です。最後の将軍徳川慶喜は、幼少期に弘道館で学び、大政奉還後ここで謹慎生活をおくりました。弘道館建学の精神は、「神儒一致」「忠孝一致」「文武一致」「学問事業一致」「治教一致」の5項目として示されています。
江戸時代に多くの人材を輩出した弘道館での教えは時代が変われども、今でもその根幹はぶれることなく私たちの事業をおこなううえでの教えとなります。新一万円札にもなっている渋沢栄一の書も弘道館で展示されていました。その書の大意は「高い志を持った人や仁の徳を備えている人は、自分の生存のために、博愛の徳にそむくようなことはしない。自分の生命を捨てても、人道をまっとうするものである」というものです。ブランドやマーケティングはビジネスが最短で成功するために数字的なゴールを最優先で計画する印象を持つ人もいますが、哲学に裏打ちされた信念や思想がないと永続的な活動(今風に言えばSDG’s)は難しい部分もあります。
明治維新後そして太平洋戦争後の急速な生活様式の西洋化に伴い、日本で長く培われてきた着物文化もその技術の伝承に赤信号がともっています。そのような時代の中で消えゆく伝統工芸に帷子(かたびら)という麻(苧麻)の生地でできた、夏に着用される裏地のないきものがあります。生地はユネスコ無形文化遺産登録された越後上布が使われ、江戸時代では武士の裃生地に仕様指定されていたひとつでもあります。今では希少となってしまった越後上布にデザインを施しあるいは古の図案を模して、染めや刺繍など18以上の工程を経て出来上がるのが今回模造(復元)された帷子です。この日は江戸時代と同じ自然光のなかで見ることができ、着物のある生活とその錦糸などが与える空間へのちょっとした輝きに時空を超えて感じることができた喜びがありました。展示と同時におこなわれた講演では、目の前の帷子ができるまでに必要な工程の数だけ職人の数も必要だという話がでていました。現在いくつかの工程では技術が途絶えかけ、検証を重ねてたどり着いた工程も多々あったということです。伝統技法が守られるためには職人の生活を支える注文の発生はマスト。社会的善とともに企業存続を志向する事業主には着物のような伝統的な文化様式を支える技術を守るための活動に視点を向けることも、価値あるブランドづくりのヒントであり、技術伝承のための社会貢献となります。この着物文化や帷子の再現に興味持たれた方は、本プロジェクトのリーダー中野童男さんの解説へのリンクをご覧ください。<古典染織復興会議 帷子模造事業>(https://www.oguna.com/exhibit.pdf)
こちらの帷子は多くの人々の支援と技術のもと完成し、奈良県立美術館に寄託され大切に保管されます。